夜の公園
今は夏なので少し怖い話もありだと思い、この話をしますが、本当に怖いので、怖い話は苦手だという人は読まない方がいいかもしれません。
3年ほど前の冬の話です。11月の終りころ、ある病院の直ぐ側にある小さな公園の前を走っていました。何気なく公園の中を見ると、ブランコに小学生の高学年くらいの男の子が乗っていました。多分、親と喧嘩でもして、不貞腐れているのだろうと思い、まあ、ありがちな事だと気にもしないで通り過ぎました。しかし通り過ぎて気が付いたのですが、小雨が降っているのです。ワイパーはたまに動かすくらいの雨なのですが、11月の雨は冷たいはずです。車の中は暖房がきき、暖かいので寒さを感じないのですが、雨に濡れてのブランコは、いくらなんでも異常です。
私はさすがに気になり、戻るべきかどうか悩みました。戻ってどうするのかという問題もありますが、ほっておけば風邪をひいてしまうでしょう。少し雨も強くなり、戻っても、もういないかもしれないと思いました。戻ってみると、やはり思った通りブランコに子供の姿はありませんでした。しかしブランコは、今でも乗っているかのように揺れています。もしかしたら雨で滑って落ちたのではないかと思い、車を降りて見に行きました。雨はまた小降りになり、濡れても気にならない程度になっていましたが、やはり少し寒いと感じていました。ブランコの周りはほとんど明かりもなく、暗闇の中で目を凝らして見たのですが、落ちたような跡は見当たりません。多分帰ったのだろうと思い、私も立ち去ろうとしていた時です。揺れていたブランコが急に止まったのです。その止まり方が不自然で、完全に慣性の法則に反した止まり方だったのです。
私は背中が冷たくなるのを感じて、後ずさりしました。早く車に戻った方がいいと思うのですが、足が思うように動きません。やっとの思いで車に戻ったのですが、先ずは車の後部座席を確認しました。何も異常が無いので、ほっとしましたが、今度はエンジンが掛かりません。何度試しても掛からないので、会社に電話して、業者に来てもらうしかないと考えていた時です。ブランコの方から、ピチャピチャという音が聞こえてきました。雨はすでに止んでいます。何の音かは、全くわからないのですが、その音は徐々に車に近づいて来ているように聞こえます。私は焦ってエンジンを掛けようとするのですが、今度は手が震えてカギを回すことが出来ません。ピチャピチャという音は直ぐそこのドアの外に聞こえます。左の手を右手の上に添えて、震えを抑えながらカギを回しました。するとようやくエンジンが掛かったのです。ほっとして直ぐにこの場所から逃げようとしましたが、その時に後ろの方から声が聞こえてきました。「お家に連れてって。」と言う蚊の鳴くようなか細い声です。恐る恐るルームミラーを覗きました。すると子供の濡れた頭が見えます。私の心臓がバクバクいうのが、はっきりと分かります。私はゆっくりと後ろを振り向きました。すると確かにブランコに乗っていた男の子が、そこにいるのです。
と、いう事があると怖いので戻るのは止めました。