烏山交番の前
今年の正月にも乗り逃げを経験しました。今年は男です。かなりオーソドックスな乗り逃げで、話としてはあまり面白くはありません。したがって事実をたんたんと書きつらねるしかありません。
その男は千歳烏山の烏山交番の前で手を挙げました。乗り込む時の鷹揚な態度が嫌な感じでした。行き先を言うのも、わざと聞き取り難く言っている様でした。今思うと、初めから乗り逃げを企んでいたので、怖い印象をつけようとしていたのだと思います。最終的には亀有まで行くのですが、途中でもわざとらしく怖がらせようとしていました。三回ほど聞き直して「亀有ですか。」と言いますと、「そうだよ、行きたくないのか。」と、そんなことは全く言ってないのにそう言うのでした。それも今思うと、道が分からないと言わせてクレームにしようと考えていたのだと思います。かなり酔っているようで、窓を全開にして「きもち悪い。」などと呟いていました。「環七を行くのでいいですね。」と言うと窓からの風の音で聞こえないのか、全く返事がありませんでした。正月の午前2時を過ぎたくらいの時間です。かなり寒いのですが、足元の温度を上げて我慢しました。文句を言えば何を言われるのか分からないので、我慢するしかないのですが、どうも本人が寒さに耐えられなくなったらしくわりと早くに自分で窓を閉めました。私はこの時点ではただの酔っ払いだと思っていたので、直ぐに寝てしまうだろうから、亀有に着いたら起こせばいいやなどと思っていました。
甲州街道で桜上水を過ぎた辺りで「高速で行け。」と言うのですが、高速上で気持ちが悪いから止めろなどと言われると、面倒だと思い、聞こえないふりをしました。信号で止まった時にナビを入れたので、高速で行くのも何も問題はないのですが、少し前に気持ち悪いと言っていたのが気になっていたのです。今思うと実際にそう言って止まらない事で喧嘩を売るつもりだったのではないかと思います。
ところが予想に反して一向に寝る気配がありません。何やら携帯をいじって、寝る様子がないのでした。経験上、自分を見失うほど酔った人は寝てしまうものですが、寝ないのが異様に思うほど普通に携帯をいじっているのです。本当はたいして酔ってないのじゃないかと思い始めました。それがどういう事かというと、何かしらクレームをつけて、料金をまけさせようと考えているのだと思いました。そういった事もSNSなでに書き込まれているのです。何かしら無理難題を言い喧嘩を売り、会社に電話するというものです。運転手は会社に電話をするというのを、嫌がり料金もまけると書かれているのです。これまでもいろいろなお客の経験もあり、SNSなどの書き込みも読んでいる私は、こんなお客には負けないと思うのでした。
環七にて
環状七号線で方南町を過ぎた辺りで、「今どの辺りだ。」と言われ、「方南町ですね。」と答えると、「何で高速に入らないんだ。」と怒鳴るように言われました。やっぱりきたかと思った私は冷静に「環七でいいですね。と聞きましたけど。」と答えました。「高速で行け。と言っただろう。」と言われましたが、「聞いていません。」と答えました。「この野郎、会社に文句を言ってやるから、電話番号を教えろ。」と言われ、「どうぞ。」と言って前のお客さんの不要な領収書を渡し、下の方に電話番号が書いてあると告げました。「しかし、普通はタクシーの運転手というのは、高速に乗るのは喜ぶものですから、乗れと言ったのに乗らなかったと言うクレームは通用しないと思いますけど、聞いていないと私が言えば会社は私を信じるでしょうね。」と言いました。するとそのお客は、「この運転手はとんでもない奴だ。」とだけ言って電話を切ってしまいました。なんだそれはと、私は呆れていました。この電話を受けた会社の人も何の電話なのか分からなかったのではないでしょうか。
あまりしたでにでると付け上がってくるし、高飛車に出れば喧嘩になるので、その調整が難しく、とにかくへりくだらずに、冷静な対応をするしかありません。鹿浜橋を過ぎた辺りで「後どのくらいで着く。」と聞いてきたので、「はっきりは分かりません。」と答えました。へんに後どのくらいかをはっきりと答えると、それの上げ足を取るような事を言われるからです。すると「何だ。その言い方は。」と言って、運転席と助手席の間から、足で蹴ってきました。私は「そんな事をして、事故にでもなったらどうするつもりですか。」と少し声を荒げて言いました。すると「そうだね、悪かった。」と言ったのです。なんだか拍子抜けしてしまいました。やはりドラレコに撮られているのが分かっていて、自粛しているのだと思いました。それ以降その人は私に文句の様な事は言いませんでした。
亀有が近づくにつれ電話を掛け続けていました。だいたいの内容は、金の無心でした。しかし夜中の三時頃です。相手は出なかったり、即座に断られたりしている様でした。多分この時点ではお金を借りてタクシーの代金も払う気でいたのだと思います。だからといって許すという訳ではありません。そのうちに友人の類が尽きたのでしょうか、行きつけのお店らしい所に電話をしたらしく、斉藤だけどと名乗ったのです。この後乗り逃げをする事になるのですが、斉藤だと名乗るのは、実は偽名でわざとなのか、単にうっかりしたミスなのか、私はうっかりミスだと思っています。ですからこの乗り逃げ犯は、斉藤さんで間違いありません。
こちら亀有駅前交番
亀有駅南口に着きました。初めて来た駅で、夜でもあるので周りの様子もさっぱり分かりません。右に駅が見えます。その左側に交番が見えます。赤信号で止まった場所は駅の真ん前でした。「そこを左。」とお客の男は言うのですが、信号は赤なので進まずにいると、「左に曲がれ。」と繰り返し言うのでした。「信号が赤ですから、行けません。」と言うと、何故か勝手にドアを開けて、左足を外に出すのでした。その格好で「左に曲がれと言ってるだろう。」と言うのでした。「分かりましたから、足を中に入れてください。」と言っても入れようとしません。要するにドアで足を挟まれたとか言って、クレームにするつもりなのだと思い、少しきつめに「ドアを閉めますから、足を中に入れてください。」と言いました。すると「もういい、金を取って来るから、ここで待ってろ。」と言い車から出て行きました。後姿を目で追うと、左に曲がれと言っていたのに、真っ直ぐに歩いて10メーター位先の右のビルに入っていきました。言っていた方向と違っていたので、これはヤバいと思いましたが、とにかく今はドライブレコーダーがあるので、まさか乗り逃げはないだろうと思っていました。
お金を取って来るから待っててくれというのは、それほど珍しい事ではなく 、よくある事なので来るだろうと思っていましたが、普通は待たせて悪いと言う気があるので、割と早くに戻るものなのです。およそ五分程待ってこれは駄目だと思いました。五分では早すぎると思うかもしれませんが、もう待っても無駄です。
直ぐそこに見えている交番に届ける事にしました。交番では真摯に対応していただきました。しかし被害届を出すだけで、2時間程かかりました。全くうんざりします。色黒できつめ目をした斉藤さんが犯人です。ドライブレコーダーの映像は亀有警察の刑事課に保管されているはずです。