有名な心霊スポット
都内の心霊スポットとして有名なのは、青山の墓地下や、千寿院のトンネルに中野哲学堂の古井戸などですが、青山の墓地下では雨の夜、黒い服を着た髪の長い女性がタクシーに手を挙げ、目的地に着くと消えてしまい、後部座席が濡れていたというタクシーあるあるです。場所は外苑西通りになりますが、青山通りから西麻布に向かうこの辺りはほとんど人通りはありません。墓地の反対側は人家もあり、少しは人通りもありますが、墓地側は歩く人がいたら、目的が分からないようなところです。こんな所で深夜に髪の長い女性が手を挙げても、乗車拒否すればいいのです。しかも雨の夜なら、当然です。万が一乗車拒否で訴えられても、幽霊だと思ったと言えばそれで許されるでしょう。深夜にこの場所を通る時は回送にするというタクシー運転手もいるくらい有名な所です。私は深夜に数十回は通っていると思いますけど、歩く人も見た事がありません。一度だけ暗くなったばかり位の時間にカップルを乗せたことがありますが、六本木ヒルズで降りて座席も濡れていませんでした。
千寿院のトンネルは、夜中でも明るく、いろいろな車が休憩をしています。深夜に通った時は必ず後ろの席を確認した時期がありましたが、一度も霊らしきものが乗ることはありませんでした。もちろんトンネル内で見ることも無かったのですが、たとえいたとしても、明る過ぎて見えないのかもしれません。トンネルの上がお墓だというだけで、心霊スポットになっているのだとしか思えません。中野の哲学堂公園の古井戸は、深夜に赤ん坊の声が聞こえると言われていますが、猫でしょう
都内ではありませんが、哲学堂と同じように古井戸から赤ん坊の声が聞こえるという、有名な心霊スポットの霊園があります。N駅の裏にあるМ霊園です。その人は5、6年前になりますが、夜の9時頃にF駅のタクシー乗り場から乗ってきて「N駅の踏切を渡ってほしいんだけど。」と言いました。N駅の踏切というのはМ霊園の入り口です。踏切を渡ると右にお寺があり、その奥はお墓しかありません。そのお寺に行くお客さんを乗せた事があり、興味本位に古井戸を探して奥まで行った事がありました。古井戸は見つけられなかったのですが、昼間だったので霊園の様子はだいたい分かりました。霊園の出入り口は踏切しかなく、奥は林になっていて Uターン出来るように広場になっていました。「そうすると、お寺に行かれるのですね。」と私が言いますと、「いや、奥に家があるんだ。」とその人は言いました。「そんなはずはありません。私は奥まで行った事がありますが、家などはありませんでした。」と言いますと、「よく知っているね。でも本当に家があるんだよ。時々そうやって、中の様子を知っている運転手さんがいて、踏切を渡ってくれないんだけど、大丈夫だから足もあるから。ほら。」と言って靴を脱いだ足を助手席との間から出して見せてきました。深夜というわけではないにしても、夜の9時頃です。どうしようかと考えてしまいました。
М霊園に女子高生
「奥の林を抜けたところに家があるとか、車の通れない小さな門の外に家があるとかですか。」と聞きますと、「うーん、かなりいい線いっているけど、ちゃんと霊園の中に家があるんだよ。」とその人は言いました。いい線いっているというのが意味がわからないと思いながらも、とにかく、見た目も話す様子も、ごく普通の人にしか見えないので心配いらないだろうと思うのでした。
N駅の前の通りは街灯も明るく、車の通りも人通りもあり、ごく普通の街並みですが、踏切の先は薄暗い街灯の下に戸を閉めた花やさんや石屋さんが並んでいます。まだ明かりがあるのですが、すでに不気味な様相をしているのでした。お寺の明かりは薄暗くその奥は暗黒の世界が広がっている感じです。「この霊園は古井戸が心霊スポットになっていますよね。」と私が言うと、「聞いたことはあるけど、赤ん坊の声は聞いたことがないね。まあそんな声がしたとしても、害はないからいいんじゃないの。」と言いました。「なるほど、確かに女の人の声がしても、ゴジラの声がしても、蝉の声がしても、害はないですね。」と私が返すと、「ゴジラの声は困ると思うね。」と言って笑いました。
霊園の真ん中あたりに来ても、家の明かりのようなものはありません。「どこかその辺のお墓の前で、ここが家なんだとか言って、そこで消えるなんてのはやめてくださいね。」と私が言うと、「面白いね、大丈夫、その先を左に曲がってください。」と言いながらゲラゲラと笑うのでした。言われたとおりに左に曲がり、しばらく走るとその先に明かりが見えました。少し開けた広場のような所に御影石が積み上げてあります。明かりは薄暗く、石屋さんの裏口のようでした。「表玄関は道路側にあるんだけど、霊園を抜けるのが一番の近道なんだよ。」と言ってその人は降りていきました。
そういう事かと思いながら、戻ろうとしたのですが、出口まで暗黒の暗闇が広がります。さっき迄はお客さんがいたので、気も紛れていたのですが、一人になるとヘッドライトに照らされたお墓の長い影が私の周りを動きまわります。お墓とお墓の間の暗闇から何かが飛び出すのではないかと、気になります。ルームミラーを見るのも今はやめておこうなどと思うのでした。
ほとんど明かりのない霊園の中ではハイビームにしています。かなり先までその明かりが届いているのですが、先の方に人影があり、こちらに向かってくるのが見えました。すこし緊張しました。こんな時間にこんな場所を人が歩いているはずはないと思うからです。近づいてくるとライトに照らされて、後ろに伸びた影がはっきり見えます。驚いたのは女子高生らしい制服を着ていたことでした。砂利道を歩く足音も聞こえます。顔は左下に向きよく見えません。間違いなく生きた人間でした。しかし女子高生が何故こんな時間にこんな場所を歩いているんだと考えると、さっきまで、霊園の暗闇に怯えていたのを忘れてしまうのでした。
考えられるのは、あの石屋さんの娘さんだとか、霊園を抜けるのが近道の家の娘さんで、霊園を歩くのを慣れているのだろうということですが、それにしてもたいしたものだと感心してしまうのでした。
動揺してしまい、ハイビームを直し忘れて、眩しい思いをさせてしまったことを謝らなければいけません。申し訳ありませんでした。